盛り土の締め固めは土工の基本であり,かつ最も重要な事項でもあります。
ここでは,技術的な内容からはちょっと外れて,土の締め固めについて感じていることを書き綴ってみました。
土の締め固めとは,不飽和土の塑性硬化であり,個人的な割り切りで言ってしまうと,排水を伴わない排気のみの一種の圧密現象だと理解しています。ローラの直下では周辺への水の移動があるかもしれませんが,盛り土全体を大局的に見ると締め固めは非排水の現象です。これは,圧密試験と締め固め試験の室内試験装置の構造を見ても分かると思います。
締め固めにおいて含水比は一定なので,横軸に含水比,縦軸に乾燥密度をとったグラフ上では,元の土の状態から締め固めに応じて鉛直に移動し,ゼロ空隙曲線と交わるところが終点です。非排水である以上,どれだけ転圧荷重を大きくしても,その含水比で飽和する密度以上には大きくなることはできません。
しかし圧密では,排水も許容されるので,飽和に達した後も,排水しながら(含水比を減少させながら),ゼロ空隙曲線上を移動し転圧荷重に応じて密度を増大させていくことが可能です。
締め固めと圧密の相違(軸の数字は適当)
これを横軸に logp ,縦軸に e をとったグラフ上で表すと,締め固めは転圧荷重 logp が大きくなると,その含水比において飽和に達する間隙比 e に漸近する曲線を描きます。
締め固めのe-logp曲線(軸の数字は適当)
このグラフを見ていてふと思いついたのが,これって雪と同じですよね?
雪に載荷して圧縮していくと,最終的には間隙がゼロになって氷になり,それ以上密度が増大することはないので,これを e-logp で整理すると,きっと同じような形状の曲線を描くはず。
”雪の圧密”なんて,ちょっとロマンティックなものを感じませんか?(世間一般には”マニアック”ともいう..)
戯言はさておいて,土の締め固めは,施工的に言えば土をローラで何回も踏むだけなのですが,それを解析的に扱おうとすると,とたんに超難問となります。
まず不飽和土であること,これだけでも逃げ出したくなるような問題です。その他,繰り返し載荷や粒子破砕の問題,車輪と土の複雑な接触問題,さらには動荷重により転圧重機の荷重がそもそも良く分からないという問題もあります。オーバーコンパクションなんて,一体どう考えれば良いのでしょう?
土の締め固め問題は,下手に手を出すと抜け出せなくなる,まるで底なし沼のようです。
(私のレベルではとても手を出せません.でも施工的なアプローチなら少しだけ首を突っ込んでみたい気もします.)
締め固めについての話題をもう一つ。
建設分野で土を扱っていると,普通は”如何に土を締め固めるか”というスタンスから物を考えますよね。
しかし,全く逆のスタンスから土の締め固めにアプローチしている人たちも大勢居られるのをご存知ですか?
現代は農業でも機械化が進み,田畑での農作業もトラクターやコンバインなどの農業機械なしでは考えられない状況になっています。これらの農業機械が田畑を走行したり作業したりする際に土を過剰に締め固めてしまうと,植物の根が貫入する際の抵抗が大きくなってしまうため,成長や収穫に悪影響を及ぼしてしまうことになります。
このため,これらの農業機械の車輪は,走破性や走行安定性などの他に,土を締め固めないことも重要な課題であり,農業機械学会やテラメカニックス研究会などを中心に研究開発が進められています。
従って,”如何に土を締め固めるか”の成果が建設機械の震動ローラであるならば,”如何に土を締め固めないか”の成果が農業機械のオフロードタイヤなのです。車輪一つにこれだけ考え方の違いがあるとは驚きです。
”土を締め固めない”側からのアプローチなんて,私には考えもつきませんでした。
何にでも裏表があるというか,このような多面的な物の見方というのは,大事にしなければと思います。
関連文献
テラメカニックス研究会 :「オフロードタイヤ工学」,「転圧ローラ工学」