シールドの立坑,地下鉄の駅舎部,建築構造物の地下など,市街地での大深度掘削が増え,各指針でも基準化されたことから,弾塑性法による山留め計算も日常的なものとなりました。
実は弾塑性解析は,組み合わせケースが可能な骨組み計算ソフトがあれば,実用性はともかく解くことが可能です。
以下にその方法を紹介しますので,人力収束計算の世界をお楽しみ下さい。
(1) 準備
山留め壁の形状寸法,使用部材および物性値
支保工の架設位置,形状寸法,使用部材,余掘り量,物性値
土層の分布及び土性値
上載荷重
各掘削ステップにおける,主働側,受働側の土圧を予め計算しておきます。この時主働側,受働側ともそのステップの掘削底面以下の静止土圧分を引いておきます。これは,もともと働いていた静止土圧は変形には無関係なので,受働側に働く力は静止土圧+バネ反力(上限は受働土圧)となることから,静止土圧を引いておけば受働側の土圧=バネ反力∝変形量となるので,弾塑性の判定が非常に楽になるからです。
(2) 第1ステップ(1次掘削:自立時)
最初のステップは1段目支保工架設直前の自立時の計算です。このステップは組み合わせケースを必要としないので,計算は非常に簡単です。
受働側は始めは全てバネ支点とします。
a) 1次掘削のモデルに背面側から主働土圧を載荷して計算します。
b) 計算の結果,根入れ部のバネ反力が(受働土圧−静止土圧)を超えたバネ支点を外して,その代わり(受動土圧−静止土圧)を分布荷重として載荷するようモデルを変更して,再度計算します。
この操作を,(受働土圧−静止土圧)を超える反力のバネ支点がなくなるまで繰り返します。そして,1段目支保工位置の変位量を求めておきます。この変位量が,支保工を架設する直前にすでに発生している変位量です。
(3) 第2ステップ(2次掘削)
このステップから,組み合わせケースによる計算が必要になるので,少し計算は難しくなります。モデルの作成において,1段目支保工は固定支点またはバネ支点としておきます。
第1ステップと同様,受働側は始めは全てバネ支点とします。
a) 2次掘削のモデルで,先に求めた1段目支保工の変位量を強制変位として与え,この時の支点反力を求めます。
b) 2次掘削のモデルで,背面側から主働土圧を載荷して計算します。但しこの時,1段目支保工位置に,a)で求めた支点反力と同じ力を反対方向から載荷します。
c) a),b)を変形,力に関して全て組み合わせたものが,第2ステップの計算結果です。
この操作を,根入れ部で(受働土圧−静止土圧)を超える反力のバネ支点がなくなるまで繰り返します。そして,2段目支保工位置の変位量を求めておきます。
(4) 第iステップ(i次掘削)
基本的な考え方は,これまでと同じです。
a) i次掘削のモデルで,これまでのステップで求めた1〜i-1段目支保工の架設直前の変位量を強制変位として与え,この時の各支点反力を求めます。
b) i次掘削のモデルで,背面側から主働土圧を載荷して計算します。但しこの時,1〜i-1段目支保工の各位置に,a)で求めた支点反力と同じ力を反対方向から載荷します。
c) a),b)を変形,力に関して全て組み合わせたものが,第iステップの計算結果です。
この操作を,根入れ部で(受働土圧−静止土圧)を超える反力のバネ支点がなくなるまで繰り返します。さらにこの操作を最終掘削まで繰り返します。
(5)プレロード
プレロードの考え方には,いくつかの種類があります。簡単な順から並べると,以下の通りです。
- 単純に荷重として処理する方法
- 背面地盤をバネ支点とする方法
- 切梁の影響は無視する。
- 既設の切梁をバネ支点として考慮する。
単純に荷重として処理する方法は,(4)の計算で集中荷重を追加するだけなのでここでは省略し,背面側をバネ支点として切梁の影響を無視する方法を説明します。これまでのモデルとは別に,背面をバネ支点としたモデルを準備します。
a) まず,プレロードを与えない場合の計算を行っておきます。
b) プレロード量は,a)で求めた切梁軸力の60〜100%程度を目安に決定します。
c) 背面側をバネ支点としたモデルに,i段目支保工のプレロードを集中荷重として載荷します。
d) 第i+1ステップの計算では,(4)で説明した通常の計算にc)の計算結果をさらに組み合わせます。
計算の方法は以上の通りです。おそらく正しいとは思っているのですが,どこか誤っている箇所がありましたら教えて頂ければ嬉しいです。なお土圧やプレロードは,基準ごとに色々な考え方がありますので,ここで説明している方法はあくまでも一般的なものです。
計算の内容から,あるステップの計算において必要な情報とは,それ以前のステップで計算した切梁位置での変位量だけであることが分かると思います。このため,i-1ステップまでの切梁架設位置での変位量さえ分かっていれば,iステップの計算をリスタート的に行うことが可能です。
ちなみに計算誤差は,本来は一致すべき支保工位置での支点反力と壁体のせん断力の値にずれが生じることで,どの程度の誤差が発生しているか分かります。
弾塑性法の計算の内容をきちんと説明できる人は意外と少ないのではないかと思います。新入社員に円弧すべり法による安定計算を1回手計算でやらせてみるのと同じように,弾塑性法解析もせめて自立時位は1回手計算でやってみることをお勧め致します。これができれば,深礎フレームを骨組み計算ソフトで解くくらい訳ないでしょう?