技術とは直接関係のない雑感的な内容が続きます。
先日,知り合いの建設系の先生と話していたら,こんな話題となりました。
こういう事を考える機会が,最近増えてきています。
1. 鋼・コンクリート構造物
土木分野では現在,建設(つく)らない=維持・管理 として,鋼・コンクリート構造物の劣化診断と補修が流行となっています。しかし,単純に現在の劣化状況を調査して補修する,という仕事は,市場として既に飽和してしまった感があります。
これからこの分野に敢えて参入するのであれば,原因分析,劣化の進展予測,補修によるライフサイクルコスト比較など,対症療法のレベルを超えた核となる技術が必要であり,その際のキーワードは何らかの形での”予測技術”だと考えています。
橋梁の劣化診断や寿命予測のプログラムが幾つか大学の研究室などから発表されていますが,開発には膨大な基礎データが必要となるので,公的機関や大手企業の研究室などでなければ手を出すのは難しいと思います。そして,将来これらのプログラムが一般に市販されるようになれば,遅かれ早かれここにも人が押し寄せて来るのでしょう。
建設らない=維持・管理=劣化診断,補修 以外の解は存在しないのでしょうか。
古いボックス,橋梁,擁壁などの構造物では公共施設であっても図面が現存していないものが多数あります。
これらの構造物を,外部からの計測,各種の破壊・非破壊調査,載荷試験,古い基準書,JIS規格,標準設計などを基に,図面や構造を可能な範囲で再現設計し,現時点における耐力を推定することは,対象とする構造物によっては部分的にであれば可能と思われます。
例えば基礎杭やゴム支承部のアンカーバーなど外部から直接目視できない個所や,PC構造物など鋼材をはつり出せない個所も当然あります。何でも推定できる訳ではなく,むしろ推定できない場合の方が多いかも知れません。
しかし既設構造物を長く使うため,現在の基準に沿って補修・補強するために,古い施設の構造を部分的にせよ把握しておくことは,意味があると思います。物によっては,形状寸法を押さえておくだけで役に立つ場合もあるはずですから。
誤差に対する責任をどうするか,などの課題はありますが,アイディアとしては面白そうな気がしませんか?
マニアック過ぎて,割が悪すぎて,ほぼ確実にすき間分野であり続けると思うのですが。
(実現するには,果たしてどれほどの需要があるのか,どれほどの精度で推定できるのか,また膨大な古い技術資料をどうやって揃えるか,など問題も多いです。現時点ではあくまでも可能性としての話です。)
色々考えた挙句,行き着いたところがローテクの極みというのが面白くもあります。
2. 土構造物
建設らない=維持・管理 という最もシンプルな解釈からすると,最大の疑問は”土構造物は劣化するか?”ということです。
常に浸透流が作用するような環境下での盛り土であれば,細粒分の流失が引き金となって,土砂の流出,パイピング,斜面崩壊などが発生することは考えられます。
橋台や橋脚基礎におけるまさ土のクリープ変形なんて,比較的分かり易い事例でしょう。
長期に亘る酸性雨との化学反応で,粘土の性状が変化して強度低下することもあるかもしれません。
また,軟岩の盛り土材によるスレーキング沈下が大きく問題となった時期もあります。
数百年,数千年という時間のオーダーであれば,土を構成している鉱物も風化するでしょう。
但し,江戸時代やそれ以前に築かれた堤や盛り土の多くが,現在においてもなお健全に機能を保持していることから,上記のような劣化現象は,発生するとしてもかなり限定的な現象である可能性は高いと思われます。
良い粒度分布を持ち,最適含水比付近で適切に締め固められた盛り土は,土木構造物の一般的な耐用年数の範囲で,はたして劣化するのでしょうか? それとも,ほとんど”永久構造物”なのでしょうか?
仮に”劣化しない”というのが大多数の答えなのであれば,残されているのは(広義の)防災分野だけなのかもしれません。
しかし,みんなが一斉に押し寄せたら,いずれこの市場も飽和するのでしょう。
(追記 : 現在の整備状況からすると,防災分野,特に河川砂防や斜面防災など,やり尽くしてしまうことは当分ないと思います。飽和するというのは,みんながそこに集まって過当競争になるという意味です。2003.8.27)
別に悲観的になっている訳ではありません,今後何処を指向すべきかということです。指向すべきはやはり”ナンバーワンよりオンリーワン”だと思います。
そのような意味では,防災分野ではなく敢えてレアケースである土構造物の劣化に拘るのも一つの選択肢なのかもしれません。
建設らない時代においてこそ価値を持つ建設工学が存在すると信じてはいるのですが。。。