円弧すべり法に代表される極限平衡法による斜面安定計算は,さまざまな仮定に基づいているため,実際の現象とは誤差を生じます。例えば(一般的には)2次元解析であること,すべり面全域に渡ってひずみが同一であり最大せん断力を発揮すること,などです。これらの仮定のうち,あるものは安全側に,あるものは危険側に働きます。これらの関係について言及している面白い論文を見つけました。
沖積粘土の掘削斜面を例にとって,実際の現象と土質試験条件の違いから発生する以下の項目の影響について,プラスマイナスを検討しています。
(1) サンプリングによる試料の乱れ
(2) 試料の変形および強度異方性
(3) ひずみ速度の違いによる強度変化
(4) 平面ひずみ状態と三軸状態による強度の違い
(5) ひずみの不均一性による進行性破壊
(6) 除荷による粘土地盤の強度低下
検討した結果は下表の通りで,このケースでは10〜20%危険側の計算結果を与えていることになっています。
論文では,以下のように記述しています。
”沖積粘土の上に盛土をした場合には,松尾らが述べているように,プラス,マイナスが結果として釣合い,φ=0法は,バランスのとれた設計法になっているが,掘削斜面の場合には,応力解放による強度低下の分だけ危険側の設計になっていることになる。”
我々は偶然にもプラス,マイナスが概ね釣り合っている奇蹟的な(?) バランスの上で,さも当り前のように安定計算を行っていたのですね。知り合いの先生は,これを”ハッピーハーモニー”と評していました。
出典及び関連文献
山田邦光,末岡 徹,中西 章:「斜面安定工法の設計と安全率」土と基礎(1982年9月)